今月の判例コラム
マンション集会決議とその限界(最高裁第三小法廷平成31年3月5日判決)
1 はじめに
最高裁判所は、平成31年3月5日、マンション全体で一括して電力供給契約を締結することを目的として専有部分における個別の電力の供給契約を解除させる旨の集会決議への違反が不法行為となるか、が争われた事案において、これを肯定した原審の判断を覆す判決(破棄・取り消し)を言い渡しました。以下、判例の内容を検討したいと思います。
2 事案の概要
- XとYらは、いずれも札幌市内の5棟から成るマンション(以下「本件マンション」といいます。)の団地建物所有者です。
- 本件マンションでは、団地建物所有者又は専有部分の占有者は、個別に電力会社との間でその専有部分において使用する電力の供給契約(以下「個別契約」といいます。)を締結して電力の供給を受けています。
- 本件マンションの団地管理組合法人の集会において、専有部分の電気料金を削減するため、団地管理組合法人が一括して電力会社との間で高圧電力の供給契約を締結し、団地建物所有者等が団地管理組合法人との間で電力の供給契約を締結する方式(以下「本件高圧受電方式」といいます。)に変更し、その変更をするために、電力の供給に用いられる電気設備に関する団地共用部分につき規約を変更する旨などの決議(以下「本件決議」といいます。)がされました。
- 本件高圧受電方式への変更をするためには、団地建物所有者等のうち、個別契約を締結している者の全員が、その解約をすることが必要とされており、本件決議は、本件高圧受電方式以外の方式で電力の供給を受けてはならない旨の規約細則(以下「本件細則」といいます。)を設定することなどにより、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けるものでした。
- 本件決議を受けて、Yら以外の団地建物所有者等は個別契約の解約申入れをしたが、本件決議に反対していたYらは、その解約申入れをしていません。
- 本件は、Xが、Yらが、その専有部分について個別契約の解約申入れをすべきという本件決議又は本件細則に基づく義務に反してその解約申入れをしないことにより、本件高圧受電方式への変更がされず、Xの専有部分の電気料金が削減されないという損害を被ったと主張して、Yらに対し、不法行為に基づく損害賠償(9165円及びこれに対する遅延損害金)を求める事案です。
3 争点
本件決議又は本件細則が建物の区分所有等に関する法律(以下「法」といいます。)に基づき、団地建物所有者等に解約申入れを義務付けるものとしての効力を有するか否かが争点となりました(かかる義務違反を理由として不法行為が構成されるためです)。
具体的には、①本件決議が「共用部分の変更」(法17条)又は「共用部分の管理」に関する事項を決するものである=法的拘束力があるとして良いか、②本件細則が、「団地建物所有者相互間の事項」(法30条1項)を定めたものである=法的拘束力があるとして良いか、が問題となります。
4 最高裁の判断
<主文>
原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。
Xの請求をいずれも棄却する。
- 原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
- 事実関係等によれば、本件高圧受電方式への変更をすることとした本件決議には、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決する部分があるものの、本件決議のうち、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決するものであって、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない。したがって、本件決議の上記部分は、法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない。このことは、本件高圧受電方式への変更をするために個別契約の解約が必要であるとしても異なるものではない。
- そして、本件細則が、本件高圧受電方式への変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしても、その部分は、法66条において準用する法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものではなく、同項の規約として効力を有するものとはいえない。なぜなら、団地建物所有者等がその専有部分において使用する電力の供給契約を解約するか否かは、それのみでは直ちに他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないし、また、本件高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず、この変更がされないことにより、専有部分の使用に支障が生じ、又は団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれないからである。
また、その他Yらにその専有部分についての個別契約の解約申入れをする義務が本件決議又は本件細則に基づき生ずるような事情はうかがわれない。 - 以上によれば、Yらは、本件決議又は本件細則に基づき上記義務を負うものではなく、Yらが上記解約申入れをしないことは、Xに対する不法行為を構成するものとはいえない。
- これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、Xの請求はいずれも理由がないから、第1審判決を取り消し、同請求をいずれも棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
5 検討
原審は、「区分所有建物にあって、電力会社から受ける電力は全体共用部分、各棟共用部分を通じて専有部分に供給されるものであるから、電力の供給元の選択においても、共同利用関係による制約を当然受けるもの」と判示し、マンション=区分所有建物の特殊性(共用部分と専有部分の密接関連性等)に配慮し、区分所有者の意思決定の自由についても、一定の拘束が認められると結論付けたものと考えられます。
これに対して、本判例は、前述した争点のうち、①については、団地建物所有権者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決するものであって、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない、②については、団地建物所有者等が電力の供給契約を解約するか否かは、それのみでは直ちに他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないこと、本件高圧受電方式への変更が電気料金の削減を目的するものに過ぎないこと等を理由に、団地建物所有者相互間の事項を定めたものではないと判示しました。
最高裁判所は、単にマンション=区分所有建物の特殊性のみでは、個人は誰からの干渉も受けずに自由に契約を締結することができるという「契約自由の原則」を制限する理由にならず、専有部分の使用に支障が生じ、又は団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなるなどの事情がなければならないとの高いハードルを課したものと理解できます。
本件は、マンションにおける高圧受電方式の採否に関する事例判断であり、専有部分の使用に関する制約となり得る事項、例えばインターネット接続回線やケーブルテレビ回線の一括契約等に関する決議又は規約の効力について、直ちに同様の結論を導くものではないと考えられておりますが、今後のマンション運営の参考になる要素を多く含むと考えられることから、本コラムにおいてご紹介させて頂きました。