知財コラム

意匠法の大改正
~施行間近の今確認すべき3つのPoint~

1 はじめに

昨年5月に公布された意匠法改正案(「特許法等の一部を改正する法律案」(令和元年5月17日法律第3号)が、いよいよ来月(4月)1日に施行されます。
今回の改正は、意匠制度の根幹にかかわる大改正といえます。本コラムでは、今回の改正のうち、施行間近の今確認すべき3つのPointに絞って説明します。

2 保護対象の拡大(Point 1)

今回の改正で最も大きな改正点は、意匠法により保護される範囲(対象)が拡大されたことです。これまでの意匠法(以下「現行法」といいます)は、登録対象となる意匠について「物品・・・の形状や模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるもの」(現行法2条1項)と定めており、保護の対象となる意匠は「物品」の形状等に限定されていました。
しかし、今回の改正により、①建築物の内外装をはじめとする空間デザインが、新たに保護の対象に追加されることになると共に、②現行法では保護対象が限定されていた画像デザインの保護対象が拡大され、ネットワークを通じて表示される画像も保護対象に含まれることになりました。
 ① 空間デザイン(建築物・内装の意匠)を保護対象に追加
 ② 画像デザインの保護対象拡大(ネットワークを通じて表示される画像も保護対象に)

  1. 建築物・内装について
    1. 建築物
      現行法の保護対象である「物品」は動産であり、不動産は含まれず、不動産は量産可能性がないことから工業上利用可能性(現行法3条1項柱書)もないとして、建築物は意匠登録の対象とはされていませんでした。この点、建築物の外観については、著作権法や不正競争防止法により保護が与えられる場合もありますが(例えば、店舗外観の類似を理由に、不正競争防止法に基づき店舗用建物の使用を禁止した事案として、コメダ珈琲店事件(東京地裁平成28年12月19日決定)などがあります。)、著作権法では芸術性が、不正競争防止法では周知性や商品等表示該当性が必要とされるため、これらの法律により保護される建築物は限定されていました。
      しかし、今回の改正により、登録対象とされる「意匠」の中に「建築物(建築物の部分を含む。)の形状」(改正法2条1項)が追加され、建築物の外観についても意匠法の保護を受けられることになりました。
    2. 内装
      内装については、今回の改正により、「店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾(以下「内装」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、内装全体として統一的な美観を起こさせるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる」(改正法8条の2)と規定されることになりました。
      この結果、全体として統一的な美観を起こさせる内装(を構成する物品、建築物又は画像)に係る意匠についても、意匠法の保護を受けられることになりました。
  2. 画像について
    画像デザインについては、現行法において「物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であって、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるもの」(現行法2条2項)が保護の対象とされており、物品にインストールされて表示されるソフトウェアの画像は保護の対象とされていました。
    一方で、現行法では「物品に表示されるもの」に限定されていたことから、壁や人体などに投影される画像や、クラウド型のサービスのように、インターネット上で画像を表示したものについては、保護の対象外とされていました。
    しかし、今回の改正により、登録対象とされる「意匠」として、物品の形状等とは別に、「画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む)」(改正法2条1項)と規定されることになりました。
    これにより、物品から独立した画像それ自体が意匠登録の対象となり、インターネット上で表示される画像のデザインも意匠法の保護を受けられることになりました(なお、壁紙当の装飾的な画像や、ゲーム等のコンテンツ画像は、画像が関連する機器等の機能に関係がない等の理由により、引き続き保護の対象とはなっていません。)

3 関連意匠制度の拡充(Point 2)

日本の意匠法は、最初に意匠を出願した者に権利を与えるという「先願主義」を採用しており、先に出願された意匠と類似の意匠を出願しても権利を取得することはできません。但し、同じ出願人であれば、自分の登録意匠に類似する意匠を後で出願した場合でも、一定の条件の下で意匠登録を受けることができるとされています。これが関連意匠制度です。
この点、現行法において「関連意匠」とは、「本意匠」に類似する意匠であって、本意匠の意匠登録出願の日以後本意匠の意匠公報の発行日までに出願された意匠とされています(現行法10条1項)。このため、本意匠の出願日から公報の発行日まで(約8カ月以内)に出願されたものしか、「関連意匠」として意匠登録を受けることができません。また、現行法では、自己の関連意匠にのみ類似し、本意匠に類似しない意匠は関連意匠として登録できないとされているため(現行法10条3項)、例えば、一つ前の代のデザイン(関連意匠)には類似しているが、その前の代のデザイン(本意匠)には類似していないという意匠については、「関連意匠」として登録を受けることができませんでした。
しかし、今回の改正により、本意匠の出願の日から10年以内の期間であれば関連意匠の出願が可能とされ(改正法10条1項)、また関連意匠にのみ類似する意匠についても関連意匠として登録を受けることが可能となりました(改正法10条4項)。

4 権利存続期間の延長(Point 3)

意匠権の存続期間については、「設定登録の日から20年」(現行法21条1項)とされています。
しかし、今回の改正により、「意匠登録出願の日から25年」(改正法21条1項)に延長されます。権利の始期は「設定登録の日」でははなく、特許と同様、「登録出願の日」となりますので、今後の管理に注意が必要です。

5 まとめ

今回の改正点は、以上に挙げたもののほかにも、意匠登録出願手続きの見直しや間接侵害の拡充など多岐にわたっています。しかし、今回の改正の最大のPointは、保護範囲(対象)が拡大されたことだといえます。
保護範囲が拡大されたことにより、例えば、Webアプリの製作やクラウドサービス、建築物・内装に関わる業界など、これまで意匠法にあまりなじみのなかった業界においても、自社が製作する画像や建築物・内装について意匠法によるデザイン保護を図ることが可能となります。逆に、今後は、自社が製作する画像や建築物などが他社の意匠権を侵害していないかという点を注意する必要もあるでしょう。
今回の改正意匠法の施行を機に、一度自社のデザイン保護戦略を見直してみてはいかがでしょうか。

(担当弁護士 石田 晃士