ウィズ・コロナを前提としたPFI契約の注意・改良点

 今回の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、PPP/PFI事業にも確実に影響を与えています。整備フェーズでの増加費用、維持管理・運営フェーズでの増加費用、逸失利益といった損害が生じることは想像に難くありません。さらに、将来においても新たな感染症により同様の状況が繰り返されることも想定されます。

 そこで、今回は、新型コロナによる損害を、PFI関連契約上、どのように考え、将来類似の事態が生じた場合を想定して何に注意すべきか検討します。

本コラムでは・・・

 → PFIにおける新型コロナに起因する損害の取り扱いを理解できます(下記1.)。
 → 将来の類似の状況をカバーするための契約上の注意点を理解できます(下記2.)。

1. 新型コロナと契約上の取り扱い

 新型コロナを契約上のどの条項で処理するかについて、以下の2つのアプローチが考えられます。

  • 不可抗力条項
  • 法令変更条項

 それぞれアプローチの対象が異なり、これにより今後の契約書の手当てで注意すべき点に差が出てきます(下記2.参照)。

(1)不可抗力条項

 新型コロナによる損害について、不可抗力条項で処理することが想像しやすいでしょう。
 不可抗力には、概ね、地震・洪水・火事その他の自然災害が含まれていますので、新型コロナをその他の自然災害に該当すると考えることになります。すなわち、新型コロナという生じた事象そのものに着目するアプローチ方法です。

 内閣府民間資金等活用事業推進室も、新型コロナによる損害を、基本的に「不可抗力」によるものと考えているようです。1

 そして、不可抗力に該当する場合、多くのPFI事業契約において、事業計画の変更、増加費用等について協議を行い、事業契約に従い増加費用を発注者とPFI事業者とで分担することになります。なお、推進室通知では、「不可抗力による損害、増加費用等の中には、基本的に物件以外の損害等も含まれると考えられます。」とあります。すなわち、維持管理・運営フェーズにおけるコロナ対応費用、さらには減収に伴う損害も協議、負担分担の対象となり得ると解釈することもできます。

(2)法令変更条項

 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言その他の政府・自治体の措置が、従前の法律・命令・通達・行政指導等の変更に該当すると考えることになります。
 不可抗力条項とは異なり、生じた事象そのものではなく、当該事象への対応に着目するアプローチ方法です。

 法令変更に該当するのであれば、事業計画の変更、増加費用等について協議を行い、事業契約に従い増加費用の分担を決定することになります。

1 令和2年7月7日付「PFI事業における新型コロナウィルス感染症に伴う影響に対する対応等について」(内閣府民間資金等活用事業推進室)(本コラムにおいて、「推進室通知」といいます。)
https://www8.cao.go.jp/pfi/corona/pdf/corona_tsuuchi.pdf

2. 今後の契約書作成上の注意点

(1)不可抗力アプローチにおける注意点

<「不可抗力」の定義の明確化>

上記1.(1)では簡略化のために新型コロナは不可抗力に該当すると言いましたが、そもそも、新型コロナは何の疑問もなく「自然災害」と言えるでしょうか。自然災害の言葉の持つニュアンスとしては、やはり地震や洪水などを指し、それが当事者の合理的意思とも言えます。自然現象と定義すれば、少し定義が広い印象となるでしょうか。

しかし、不可抗力への該当性がその後の事業の取り扱いに直結するため、その該当性は明確である必要があります。また、不可抗力条項自体が最終的手段という位置付けですので、その手段を行使できる場面は明確であるべきと考えます。

したがって、不可抗力事由には、疾病を明確に含めるべきです。もっとも、単に、疾病と規定すると、脅威ではない病気が発生しただけで不可抗力条項が簡単に発動され得るので妥当ではありません。そこで、疾病・疫病・感染症の流行・蔓延、パンデミック、感染爆発などと規定すべきです。

<コントロール・予見可能性文言の有無>

  • 不可抗力の定義上の問題

契約書によって、不可抗力事由は、以下のようにいくつかのパターンがあります。
① 自然的事象 or 人為的事象
② 自然的事象 or 人為的事象 or その他当事者のコントロールを超えた事象
③ 自然的事象 or 人為的事象、かつ、当事者が予見(又はコントロール)できない事象

*新型コロナ等の感染症が自然的事象に含まれることを前提

今回の新型コロナを体験した今、将来の類似の感染症の発生及び蔓延の防止は、当事者はその方法を実行でき、インパクトを予見し、コントロールできるものになったかもしれません。
上記③の定義の場合、不可抗力事由は当事者が予見できないものである必要があるので、将来の類似の感染症及びそれに伴う社会状況は不可抗力事由に該当せず、不可抗力条項が発動できないことになります(なお、①であれば自然的事象に含まれ、②であれば、コントロールを超えた事象に含まれなくても自然的事象に含まれ、不可抗力条項発動可能となります。)。

この点を発注者及びPFI事業者が認識した上で上記③の定義を用いるのであれば構いませんが、かりに、この論点を認識せず、したがって、PFI事業費用に含めていないという事態になれば、PFI事業継続に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

  • 推進室通知上の問題

推進室通知では、「新型コロナウイルス感染症の影響により通常必要と認められる注意や予防方法を尽くしても事業の設計・建設・維持管理・運営等に支障が生じるといえる場合は、基本的に「不可抗力」によるものと考えられます。」と記載されています(注:下線は筆者付記)。
そうであれば、今回の一連の対応により、「通常必要と認められる注意や予防方法」が確立されたのであれば、将来の感染症については必ずしも不可抗力条項にはよることはできないとも解釈できます。

したがって、不可抗力の定義を見直すなど契約上の手当てを一切せずに、将来の感染症についても推進室通知に依拠して処理できると考えるのは非常に危険です。

<増加費用の負担割合>

不可抗力により生じた増加費用について、その1%をPFI事業者が負担する内容の事業契約が多いと思います。この1%の負担の意味は、一定の負担をPFI事業者も負わなければならないことを明確にして、不可抗力事由による損害を放置せず最小限に食い止めることをPFI事業者に動機付けることにもあります。
もっとも、かかる動機付けは、PFI施設が毀損している、その毀損により維持管理・運営が停止しているというように、物件に起因した事象を想定しているものと思われます。

新型コロナによる増加費用等の損害は、修繕等をすれば回復する物件の毀損とは異なり、PFI事業者がどうにかできるものではなく、そもそも1%の負担を課した動機付けが機能する場面ではないと考えます。

したがって、不可抗力による費用負担は、一律にPFI事業者が1%負担とするのではなく、不可抗力事由に応じて取り扱いを異にできる建付けにすることが望ましいと考えます。なお、実際には、協議を通して柔軟な対応で処理されるものと思いますが、協議がまとまらなければ事業契約の規定が機械的に適用されることをPFI事業者は予め意識して入札前Q&Aを行い、事業契約を締結しなければなりません。

(2)法令変更アプローチにおける注意点

<法令変更とは?>

新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき通達・ガイドライン等や従前の取り扱いが変更されたという事例は法令変更条項で処理できます。また、施設整備や維持管理・運営の強制的な停止・制限がなされたという事例も法令変更条項で処理する余地はあるでしょう(但し、「法令等」の定義に、公的機関の定める規定・判断・措置等が含まれているか注意が必要です。)。

一方で、自粛要請に過ぎない場合、早い段階で自主的に事業を停止したという場合が法令変更条項でカバーできるかは疑問が残ります。

当該事象への対応に着目するアプローチする方法ですので、新型コロナの発生という事象に直結して法令変更条項を発動できるわけではありません。したがって、「対応」部分を契約書上いかに詳細に、かつ、広範に拾うことができる条項となっているかに注意しなければなりません。

<費用分担規定の妥当性>

法令変更に伴う増加費用の負担について、以下のとおり規定されている例が多いです。
① PFI事業遂行に直接影響を与える特有の法令の変更:発注者負担
② PFI事業にかかわらず一般的に適用される法令の変更:PFI事業者負担

新型コロナに関連して法令等が変更された場合、当該変更は、当該PFI事業を行っていることをもって適用されるわけではなく、法人全般に適用されます。上記規定例によると、②に該当するものとして、PFI事業者が負担することになってしまい妥当ではありません。

そこで、①に関して、そのPFI事業特有の法令に限定するのではなく、PFI事業遂行に重大な影響を与える結果となる法令の変更という形で規定の適用対象を広げるべきと考えます。かかる修正をしても、法人税や会社法の一般規定など②で処理されるべき法令変更は②の適用対象のままなので、リスクアロケーションを発注者側に一方的に不利に変更することにはならないと考えます。

3. まとめ

 将来の感染症対策との関係で不可抗力条項と法令変更条項を比較するに、不可抗力条項の方が使い勝手が良いように感じます。

 そこで、新感染症を拾い上げられるように修正した不可抗力条項をメインとし、自粛要請及び自主的な休業を法令変更条項でもカバーできるようにするというアプローチで、PFI関連契約を見直していくことがよいと考えます。但し、リスク分担のバランスは、個々のPFI事業に応じて異なるため、事案ごとに柔軟に検討することが望ましいです。検討にあたっては、必要に応じて専門家にご相談いただくとよいでしょう。

 上述の注意点を意識してPFI関連契約を見直し、将来のパンデミックの可能性と公共事業遂行の両立に備えてください。

(担当弁護士 藤田剛敬 / 同 坂下良治 / 同 鈴木康之 / 同 宮内望