今月の判例コラム

有期労働契約を締結していた労働者が労働契約上の地位の確認等を求める訴訟の攻撃防御方法
最高裁第一小法廷令和元年11月7日判決

1. はじめに

 最高裁判所は、令和元年11月7日、有期労働契約を締結していた労働者が労働契約上の地位の確認等を求める訴訟において、契約期間の終了の効果が発生するか否かを判断せずに請求を認容した原審の判断が違法か争われた事案において、違法である旨を言い渡しました。
 有期労働契約を解消が争われた際に、どのような主張を訴訟で展開することが求められているのかを示した事例として、今回のコラムでご紹介させて頂きます。

2. 事案の概要

  1. XとYとの間の労働契約等
     Xは、平成22年4月1日、Yとの間で、契約期間を同日から同23年3月31日までとする有期労働契約を締結し、Yが指定管理者として管理業務を行う市民会館で勤務することとなった。なお、上記労働契約には、契約を更新する場合がある旨の定めがあった(以下、XとYとの間の労働契約を「本件労働契約」という。)。
     本件労働契約は、上記と同様の内容で4回更新され、最後の更新において、契約期間は平成26年4月1日から同27年3月31日までとされた。
     Yは、平成26年6月6日、Xに対し、同月9日付けで解雇する旨の意思表示をした(以下、これによる解雇を「本件解雇」という。)。
  2. 第1審における経緯
     Xは、平成26年10月25日、本件訴訟を提起し、同年12月18日の第1回口頭弁論期日において、最後の更新後の本件労働契約が、契約期間を同年4月1日から同27年3月31日までとする有期労働契約である旨の訴状に記載した事実を主張した。
     第1審は、平成29年1月26日に口頭弁論を終結し、同年4月27日、Xの請求を全部認容する判決を言い渡した。同判決は、その理由において、本件解雇には労働契約法17条1項にいう「やむを得ない事由がある」とはいえず、本件解雇は無効であるとし、Xは労働契約上の権利を有する地位にあるというべきであるとした。
  3. 原審における経緯
     Yは、第1審判決に対して控訴をし、本件労働契約が契約期間の満了により終了したことを抗弁として主張する旨の記載がされた控訴理由書を提出した。
     Xは、上記の主張につき、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである旨を申し立てるとともに、雇用継続への合理的期待が認められる場合には、解雇権の濫用の法理が類推され、契約期間の満了のみによって有期労働契約が終了するものではないところ、本件労働契約の契約期間が満了した後、契約の更新があり得ないような特段の事情はないから、その後においても本件労働契約は継続している旨の記載がされた控訴答弁書を提出した。
     原審は、平成29年9月14日の第1回口頭弁論期日において、Yの上記の主張は時機に後れた攻撃防御方法に当たるとしてこれを却下し、口頭弁論を終結した。

3. 争点

 有期労働契約を締結していた労働者が労働契約上の地位の確認等を求める訴訟において、契約期間の終了の効果が発生するか否かを判断せずに請求を認容した原審の判断は違法か否か。

4. 最高裁の判断

  1. 結論
     原審の判断のうち、契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく、Xの労働契約上の地位の確認請求及びその契約期間が満了した後である平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分は是認することができない。
  2. 理由
     最後の更新後の本件労働契約の契約期間は、Xの主張する平成26年4月1日から同27年3月31日までであるところ、第1審口頭弁論終結時において、上記契約期間が満了していたことは明らかであるから、第1審は、Xの請求の当否を判断するに当たり、この事実をしんしゃくする必要があった。
     そして、原審は、本件労働契約が契約期間の満了により終了した旨の原審におけるYの主張につき、時機に後れたものとして却下した上、これに対する判断をすることなくXの請求を全部認容すべきものとしているが、第1審がしんしゃくすべきであった事実をYが原審において指摘することが時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たるということはできず、また、これを時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下したからといって上記事実をしんしゃくせずにXの請求の当否を判断することができることとなるものでもない。
     ところが、原審は、最後の更新後の本件労働契約の契約期間が満了した事実をしんしゃくせず、上記契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく、原審口頭弁論終結時におけるXの労働契約上の地位の確認請求及び上記契約期間の満了後の賃金の支払請求を認容しており、上記の点について判断を遺脱したものである。
     以上によれば、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、労働契約上の地位の確認請求及び平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分は破棄を免れない。そして、Yが契約期間の満了後も本件労働契約が継続する旨主張していたことを踏まえ、これが更新されたか否か等について更に審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
     なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
     よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

5. 検討

 以上のとおり、最高裁は、期間の満了に関する攻撃防御を尽くさずにXの請求を認容した原審の判断は違法である旨を判示しました。
 本件のように、有期労働契約上の地位の確認を求める訴訟において使用者は、①解雇による契約の終了の事実又は②期間満了による契約の終了の事実を主張することが考えられます。
 この点、①については、解雇の意思表示及び労契法17条の「やむを得ない事由」が存すること、②については、期間の定めの存在及びその期間の満了を主張することとなると考えられます。
 最高裁は、有期労働契約を締結した労働者による労働契約上の地位の確認請求した本件訴訟において、②について、当事者(労働者である原告)が有期労働契約の契約期間が満了していることを事実上主張している以上、主張共通の原則から、当該事実、すなわち、契約期間が満了していたことが必ずしんしゃくされなければならないと結論づけております。
 それ故、本件最高裁判例を前提にすれば、労働者である原告は、本来であれば第1審において、労契法19条1号又は2号に該当し、さらに柱書きに該当すれば、新たな有期労働契約を締結したものとみなされることから、②の事実に対する再反論として、これらの事実を積極的に主張、立証しなければならなかったといえるでしょう。

6. 参考文献

 判例時報2435号・104頁

(担当弁護士 金子典正/同 小熊慎太郎