今月の判例コラム

バッグデザインの商品等表示性、著作物性(東京地方裁判所令和元年6月18日判決)

1. はじめに

衣類等の製造・販売をする場合、当該衣類等のデザインによっては不正競争行為または著作権侵害行為に該当してしまうことがあります。

本件は、事例判断ではありますが、どのようなデザインの場合に不正競争行為または著作権侵害行為に該当するのかという点について、参考になる裁判例でありますので、今回のコラムでご紹介させて頂くことに致しました。

2. 事案の概要

平成26年11月25日 衣類等のデザイン会社であるX1は、原告商品の商標登録を出願した。
平成27年5月15日 原告商品にかかる商標権が登録された。
平成28年9月頃 装飾雑貨等の企画、製造、販売等を営む会社であるYは、ショルダーバッグ等(以下、総称して「被告商品」という。)を販売した。
平成29年10月 X1及びX1の子会社で衣類等の製造販売会社であるX2は、Yによる被告商品の販売は、不正競争防止法2条1項1号または2号所定の不正競争行為に該当すると主張し、また、原告商品に係る形態には著作物性が認められるとし、Yの行為はその著作権侵害行為に該当するなどと主張して、Yに対して、その製造・販売の差止め等を請求した。

3. 原告商品と被告商品の比較

原告商品1(品番BB7AG054)
と同じタイプ:品番BB01AG054
(https://www.baobaoisseymiyake.com/) 
被告商品1(本判決文より引用)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/794/088794_hanrei.pdf

4. 争点

本件では、主に、(1)不正競争行為の有無として「原告商品の形態は商品等表示に該当するか」という点、及び、(2)著作権侵害行為の有無として「原告商品に著作物性が認められるか」という点が争われました。

5. 判旨(抜粋・編集あり)

  1. 商品等表示性について
    「不正競争防止法2条1項1号は、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止するものであるところ、商品の形態は、通常、商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は宣伝広告や販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合には、商品の形態自体が、一定の出所を表示するものとして、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあるといえる。」

    原告商品は、わずかな例外を除いて、①「中に入れる荷物の形状に応じて、鞄の構成部分であるピースの境界部分が折れ曲がることにより様々な角度がつき、荷物に合わせて鞄の外観が立体的に変形する」もので、②「上記①の外観を持たせるため、鞄の生地に無地のメッシュ生地又は柔らかい織物生地を使用し」、③’「その上にタイルを想起させる一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを、タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて、敷き詰めるように配置する」という特徴(以下「本件形態1´」という。)を備えている。

    「一般的な女性用の鞄等の表面は、布製の鞄のように中に入れる荷物に応じてなめらかに形を変えるか、あるいは硬い革製の鞄のように中に入れる荷物に応じてほとんど形が変わらないことからすれば、原告商品の形態は、従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有していたといえる。」

    「したがって、原告商品の本件形態1´は、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していたといえ、特別顕著性が認められる。」

    また、販売期間が14年余りにわたることや、売上高や広告実績等からすると、「遅くとも」「平成27年時点では、長年にわたる宣伝広告、メディアの報道、販売実績の増大により、需要者の間において、本件形態1´がX2の出所を示すものとして広く認識されていたと認めるのが相当である。」

    「以上によれば、原告商品の本件形態1´は、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当すると認められる。」

  2. 著作物性について
    「著作権法は、著作権の対象である著作物の意義について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法2条1項1号)と規定しているところ、その定義や著作権法の目的(同法1条)等に照らし、実用目的で工業的に製作された製品について、その製品を実用目的で使用するためのものといえる特徴から離れ、その特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できないものは、「思想又は感情を創作的に表現した美術の著作物」ということはできず著作物として保護されないが、上記特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる場合には、美術の著作物として保護される場合があると解される。」

    これを「原告商品」についてみるに、「原告商品」は、「物品を持ち運ぶという実用に供されることが想定されて多数製作されたものである。」

    「原告らが美的鑑賞の対象となる美的特性を備える部分と主張する原告商品」の「本件形態1は、鞄の表面に一定程度の硬質な質感を有する三角形のピースが2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて敷き詰めるように配置され、これが中に入れる荷物の形状に応じてピースの境界部分が折れ曲がることにより様々な角度がつき、荷物に合わせて鞄の外観が立体的に変形するという特徴を有するものである。」「原告商品における荷物の形状に応じてピースの境界部分が折れ曲がることによってさまざまな角度が付き、鞄の外観が変形する程度に照らせば、機能的にはその変化等は物品を持ち運ぶために鞄が変形しているといえる範囲の変化であるといえる。上記の特徴は、著作物性を判断するに当たっては、実用目的で使用するためのものといえる特徴の範囲内というべきものであり、原告商品において、実用目的で使用するための特徴から離れ、その特徴とは別に美的鑑賞の対象となり得る美的構成を備えた部分を把握することはできないとするのが相当である。」

    「したがって、原告商品」は「美術の著作物又はそれと客観的に同一なものとみることができず、著作物性は認められない」。

6. 検討

本判決は、商品形態に関する商品等表示性について、特別顕著性と周知性の2つを要件とする規範を採用しています。その中でも特別顕著性の要件は、商品形態のどのような特徴に焦点を当てるかにより保護される対象も変わってくるため、当事者としては、何を特別顕著な特徴として主張すべきか、という点に注意する必要があります。

本判決では、原告商品の商品等表示として保護されるべき具体的な形態が争いとなりました。Yは原告商品について、証拠となった掲載情報等からみて、「1種類の直角二等辺三角形のピースを規則的・連続的に配置する」ことのみに特別顕著性が認められるべきと主張しましたが、裁判所は判旨掲載の本件特徴③’(上記③’)の特徴を認定し、Yの主張を排斥しています。

本判決は、Yの主張に対する応答においても、従前の商品と比較した場合の原告商品の形態の特徴に加え、荷物を入れ、表面が立体的に変化した状態の原告商品に需要者が接することを強調しており、その状態を前提とすることで、原告商品特徴として、本件特徴③’の認定を正当化されたものと考えられます。

このように本判決は、商品の形態の変化を前提に、物理的な原告商品の特徴ではなく、需要者が観察し注目する状態の特徴を、原告商品の特徴として認定したと整理することも可能かと思います。もっとも、本件では原告商品が高い周知性を有するという取引の実情を前提に、ピースの形状や規則性の差異をあまり重視しなかったにすぎず、このような認定の仕方が他の事例にもそのまま通用するかについては慎重に判断する必要があるものと思われます。

なお、著作物性についてXらが美的特性として主張した特徴は、鞄に荷物を入れ持ち運び、そこで鞄の形状が変化するという、鞄の目的を果たすことと対応関係にある特徴でした。

一方で、著作権法が著作物として要求するのは、その製品を実用目的で使用するためのものといえる特徴から離れ、その特徴とは別に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているかという点であり、一般的に不正競争防止法における商品等表示性の要件とは異なるより厳格な判断がなされており、本判決もその点を指摘して、著作物性を否定したものと考えられます。

7. 参考文献

令和元年度重要判例解説・264頁

(担当弁護士 金子典正/同 岡野椋介