今月の判例コラム

SMS用電子メールアドレスとプロバイダ責任制限法の発信者情報
(東京地裁令和元年12月11日判決)

1. はじめに

近年、インターネット上での誹謗中傷事件、名誉毀損事件が問題視されておりますが、被害者が加害者へ損害賠償請求を行う際には、誰が加害者であるかを特定する必要があります。その際に、被害者が取り得る手段として、いわゆるプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求が挙げられます。

本件は、発信者情報開示請求に関する事件であり、その判示事項が、下級審ではありますが、今後の実務上影響が大きいと考えられることから、今回のコラムでご紹介させて頂きます。

2. 事案の概要

本件では、インターネット上の投稿サイトに氏名不詳者がした投稿によって権利を侵害されたと主張する原告らが、当該投稿をした者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使するため、当該投稿の発信者がその発信のために利用した経由プロバイダである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、当該投稿の発信者に係る情報の開示を求めました。

なお、原告らが開示を求める発信者情報には、SMS用電子メールアドレス(SMS(Short Message Service)とは、携帯電話同士で文章をやり取りするサービスであり、SMSの送受信においては、電話番号が送受信先の電子メールアドレスとして機能することとなります。)が含まれていました。
他方、被告は、プロバイダ責任制限法4条1項によって開示の対象となる発信者情報に、電話番号自体が開示の対象となっていないことなどを根拠に、SMS用電子メールアドレスが含まれないとして争いました。

3. 争点

裁判では、プロバイダ責任制限法4条1項によって開示の対象となる発信者情報に、SMS用電子メールアドレスが含まれるか否かが争われました。

4. 判旨(紙面の都合上抜粋・編集あり)

プロバイダ責任制限法4条1項柱書は、開示請求の対象となる発信者情報について「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。」と定め、これを受けて平成14年総務省令3号は、発信者の特定に資する情報の一つとして「発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)」を定めている。SMSは、SMTPを用いた通常の電子メールと同様に、特定の者に対し通信文その他の情報を通信端末機器の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信であり、送受信先の電子メールアドレスとしてその電話番号を使用するものであるから、SMS用電子メールアドレスについても、平成14年総務省令3号の定める「電子メールアドレス」に当たると解することができるものといえる。もっとも、平成14年総務省令は「電子メール」の定義規定を設けておらず、プロバイダ責任制限法4条1項及び平成14年総務省令3号の規定からは、平成14年総務省令3号の「電子メールアドレス」にSMS用電子メールアドレスが含まれるのか否かが必ずしも明確であるとはいえない。

ところで、プロバイダ責任制限法3条の2第2号は、「電子メールアドレス等」について、公職選挙法142条の3第3項に規定する電子メールアドレス等をいうと定義し、公職選挙法142条の3第3項は、「電子メールアドレス等」について、特定電子メール法2条3号に規定する電子メールアドレスその他のインターネット等を利用する方法によりその者に連絡をする際に必要となる情報をいうと定義しており、さらに、特定電子メール法2条3号は、「電子メールアドレス」を「電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。」と定義し、同条1号は、「電子メール」を「特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信であって、総務省令で定める通信方式を用いるものをいう。」と定義している。そこで、特定電子メール法2条1号の規定を受けて制定された平成21年総務省令をみるに、同令2号では、電子メールに該当する通信方式の一つとして「携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式」が規定されている。

したがって、文理解釈上、SMSで用いられる電話番号は、特定電子メール法が定義する「電子メールアドレス」に該当することから、これを引用する公職選挙法142条の3及びプロバイダ責任制限法3条の2においては、「電子メールアドレス」に該当するとの結論が導かれる。

法解釈の予測可能性や法的安定性等の観点に照らせば、同一の法律内における同一の用語の意義は、別段の定めがない限り、統一的に解釈するのが原則というべきである。そうすると、プロバイダ責任制限法3条の2における電子メールアドレスの定義をプロバイダ責任制限法4条1項には適用しない旨の明文の規定が存在しない以上、同項及びこれを受けた平成14年総務省令3号においても、プロバイダ責任制限法3条の2におけると同様、SMSで用いられる電話番号は「電子メールアドレス」に該当すると解するのが相当である。

以上のとおり、平成14年総務省令3号の「電子メールアドレス」にはSMS用電子メールアドレスも含まれると解されることから、SMS用電子メールアドレスも発信者情報として開示請求の対象となる。

5. 検討

本裁判例が出される以前は、電話番号は発信者開示情報として含まれないというものが実務の理解であったと思われますが、本裁判例により、実質的に電話番号が発信者開示情報に含まれるものとされる可能性があります。

インターネット上の掲示板、個人のブログ、SNS等において名誉を毀損する記事やプライバシーが侵害された場合、被害者は、加害者に対して、民事上の損害賠償請求が可能ですが、その前提として、加害者=発信者情報を特定する必要があります。

本裁判例は、これまで開示情報に含まれてないとされていた電話番号情報について、事実上開示の範囲に含まれるとするものであり、被害者保護の観点からは、一歩踏み込んだ判断がなされたといえます。

他方で、余りに被害者側の権利を強調しすぎると、本来自由に行い得る表現行動に萎縮効果を齎すことになり、表現の自由との兼ね合いで非常に難しい問題を孕んでいると考えます。

そのため、少なくとも、本裁判例の争点に関する上級審の判断による解釈の確定ないし立法的な解決が望まれるところです。

6. 参考文献

判例時報2447号・11頁

(担当弁護士 金子典正/同 小熊慎太郎