有期雇用契約の更新限度条項・不更新条項に関する近時の裁判例の検討

労働契約法19条2号の更新期待と合意原則(山梨県民信用組合事件最高裁判決)との関係

1. はじめに

本稿では、有期雇用契約の更新限度条項・不更新条項について判断をした近時の2つの裁判例、日本通運事件(東京地裁令和2年10月1日判決 労判1236号16頁)と日本通運(川崎・雇止め)事件(横浜地裁川崎支部令和3年3月30日判決 労判1255号76頁)を取り上げます。

前者は、複数回の更新の後に、労働契約5及び6の契約書には更新限度条項が設けられ、労働契約7及び8の契約書には不更新条項が設けられた事件です。他方、後者は、当初の雇用契約から、5年を超えて更新をしないという不更新条項が設けられていた事件です。なお、両事件とも結論としては雇止めが有効となっておりますが、本稿では、労働契約法19条2号の更新期待と合意原則(山梨県民信用組合事件最高裁判決)との関係という視点から2つの裁判例を比較検討していきたいと思います。

さて、有期雇用契約について、労働契約法19条2号は、当該有期雇用契約の契約期間の満了時に当該有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められるときに、労働者が更新の申込をした場合、使用者が申込を拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、従前の労働条件と同一の労働条件で申し込みを承諾したものとみなす、と規定しています。

この更新に対する合理的期待について、更新限度条項・不更新条項が雇用契約に規定されることにより、どのような法的効果をもつのか、また、2つの裁判例の事案の相違が法的効果にどのような違いを生じるのか、について、合意原則(山梨県民信用組合事件最高裁判決)を補助線にして、以下、見ていきましょう。

2. 途中から更新限度条項・不更新条項が付されている場合(日本通運事件(東京地裁令和2年10月1日判決)

まず、裁判所は、一般論として、労働契約法19条2号は当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などの客観的事実を総合考慮して判断されるべきであること、また、同号の「満了時」は、最初の有期雇用期間の締結時から雇止めされた雇用契約の満了時までの間の全ての事情が総合的に勘案されること、いったん労働者が雇用継続への合理的期待を抱いたにもかかわらず、満了前に使用者が更新年数の上限を一方的に宣言したとしても、そのことをもって直ちに同号の該当性は否定されないことを述べています。この一般論は、後述する日本通運(川崎・雇止め)事件でも踏襲されています。
そして、裁判所は、これに続けて、本件について、以下のように判断しています。

すなわち、本件のように契約書に不更新条項等が記載され、これに対する同意が更新の条件となっている場合には、労働者としては署名を拒否して直ちに契約関係を終了させるか、署名して次期の期間満了時に契約関係を終了させるかの二者択一を迫られるため、労働者が不更新条項を含む契約書に署名押印する行為があることをもって、直ちに不更新条項等に対する承諾があり、合理的期待の放棄がなされたと認めるべきではなく、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限り(最高裁平成28年2月19日判決、山梨県民信用組合事件参照)、労働者により更新に対する合理的な期待の放棄がされたと認めるべきである、としました。本件では、労働契約5及び6の締結時に法的効果などの説明をしていないこと、労働契約7の締結時には労働者が異議を留めるメールを送っていることから、合理的期待を放棄したとは認めませんでした。そして、使用者が当該有期雇用契約期間満了前に使用者が更新年数の上限を使用者が一方的に宣言しても、そのことのみをもって労働契約法19条2号の該当性が否定されることにはならないことから、不更新条項等の存在は雇用継続の期待の合理性を判断するための事情の一つにとどまる、としています。

この裁判例の特徴は、更新期待の放棄について、山梨県民信用組合事件最高裁判決を参照して、合意原則の規範を参照して判断していることです。以下、表1にまとめました。

表1 途中から更新限度条項等を入れた場合

法的効果
不更新条項等が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合 労働者により更新に対する合理的期待が放棄
不更新条項等が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在しない場合 不更新条項等は雇用継続の期待の合理性を判断するための事情の一つにとどまる

このことからうかがえることは、途中から不更新条項等を入れる場合に、労働者に対して法的効果などの説明をすることなどを実施することが重要になるということです。裁判所も二者択一を労働者に迫るものとして、不更新条項等に否定的な見方をしておりますが、逆を言えば、不更新条項等の締結の段階で労働者が自由意思で締結したと言える場合には更新の合理的期待を放棄したとしていえることになりますので、不更新条項等の締結の際の説明などを丁寧に履行することが推奨されます。

3. 当初の雇用契約から更新限度条項・不更新条項が付されている場合(日本通運(川崎・雇止め)事件)

後者の日本通運(川崎・雇止め)事件は、最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない旨の不更新条項が付されており、その後、期間1年、4回の契約更新を経て、当初の雇用契約から5年の期間満了日付で雇止めをした事件です。

裁判所は、未だ更新に対する合理的期待が形成される以前である本件雇用契約締結当初から更新上限があることを明確に示され、それを認識の上、本件雇用契約を締結しており、その後も更新に係る条件については特段の変更もなく更新が重ねられ、当初から更新上限として予定された通りに更新をしなかったものであること、事業内容・従前の経営状況に加え、担当業務は顧客の事情により業務量の減少、契約の終了があることが想定されていたこと、業務内容は高度なものではなく代替可能であり恒常的とまではいえないものであったこと、不更新条項が約定どおりに運用されていない実情はうかがわれないこと等を挙げ、当初から満了まで更新に対する合理的期待を生じさせる事情があったとはいえないとしています。

さらに、本件は、当初の雇用契約締結時に不更新条項が明示的に付与されており、労働条件の変更に対する労働者の同意の有無についての判断の方法につき判示した山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19日判決)の射程に入らないとし、通常は更新に対する合理的期待が形成される以前であり、労働者が契約するかどうかの自由意思を阻害するような事情はない、使用者が5年を超えて労働者を雇用する意図がない場合に当初から更新上限を定めることが直ちに違法になるとはいえないとし、雇止めを肯定しています。

この裁判例からは、当初の有期雇用契約の締結時において業務量の減少等により雇止めが不可避であることが判明している場合には、当初の有期雇用契約から更新限度条項等を入れること、さらに、これについて説明等をすることで更新の合理的期待が生じないようにしておくことが法的効果の面からも推奨されます。

4. まとめ

以上から山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19日判決)との関係について、2つの裁判例からは以下の表の通りの相違が生じることになります。

表2

途中から更新限度条項等を入れる場合 山梨県民信用組合事件最高裁判決の規範を参照して判断。
当初から更新限度条項等を入れる場合 山梨県民信用組合事件最高裁判決の射程の範囲外。更新の合理的期待が形成される以前であり自由意思を阻害しない。

このように、当初から更新限度条項・不更新条項を入れる場合と途中から入れる場合について、山梨県民信用組合事件最高裁判決が示した規範をめぐって相違が生じうること、また、途中から更新限度条項等を入れた場合にも山梨県民信用組合事件最高裁判決の規範が考慮され、事案により更新期待の放棄か、雇用継続の期待の合理性を判断するための事情の一つにとどまるのか、の結論の分かれ目が生じることを見てきました。

有期雇用契約に更新限度条項・不更新条項等を規定することをご検討される会社において、2つの裁判例は参考になるのではないかと思いましたので、ご紹介いたしました。

(担当弁護士 木下達彦