今月の判例コラム

懲罰的損害賠償部分が含まれる外国裁判所の判決に関する最新判断
(最高裁判所第3小法廷令和3年5月25日判決)

1. はじめに

個人においてですら外国法の適用される取引を行うことが珍しくない今日においては、誰でも外国法による訴訟の当事者となり、場合によっては当該外国の判決に基づき国内外において強制執行を受け得ることは否定できません。

今回の判例は、強制執行の場面はもとより、外国法での判決に基づく法律行為の国内での取り扱いについて広く影響を及ぼす可能性があると思われるため、これを紹介します。

2. 事案の概要

平成25年3月8日 Xらは、YがXらのビジネスモデル、企業秘密等を領得したなどと主張して、Yほか数名に対して損害賠償を求める訴えをカリフォルニア州オレンジ郡上位裁判所(以下「本件外国裁判所」という。)に提起した。
平成27年3月20日 本件外国裁判所が、上記損害賠償請求訴訟において、Yに対し、補償的損害賠償として18万4990ドル及び訴訟費用として519.50ドル並びにこれらに対する年10%の割合による利息を支払うよう命じ、これに加えて同州民法典の定める懲罰的損害賠償として9万ドル(以下「本件懲罰的損害賠償部分」という。)をXらに支払うよう命ずる判決(以下「本件外国判決」という。)を言い渡し、本件外国判決は、その後確定した。
平成27年6月頃 Xらの申立てにより、本件外国裁判所は、本件外国判決に基づく強制執行として、Yの関連会社に対する債権等をXらに転付する旨の命令(以下「本件転付命令」という。)を発付。
平成27年12月頃 Xらは本件転付命令に基づき、約13万5000ドルの弁済(以下「本件弁済」という。)を受けた。
平成27年12月頃 Xらは本件外国判決に基づき、認容額から本件弁済分を控除した約14万ドル及び当該金員に対する年10%の割合による利息支払義務につき、民執法24条に基づき執行判決を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起。

3. 主な争点

民訴法118条3号の要件を具備しない金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合に、上記部分への充当を前提として執行判決を行うことの可否。

4. 原審決と知財高裁の判断

  1. 原審の判断
    原審は、本件外国判決のうち本件懲罰的損害賠償部分は、我が国の公の秩序に反するものであるが、カリフォルニア州において本件懲罰的損害賠償部分に係る債権が存在することまで否定されるものではなく、本件外国裁判所の強制執行手続においてされた本件弁済は、上記債権を含む本件外国判決に係る債権の全体に充当されたとみるほかないとした上で、本件外国判決の認容額(約27万5000ドル)から弁済額(約13万5000ドル)を差し引いた残額(約14万ドル)について債権の行使を認めても公の秩序に反しないから、本件外国判決のうち上記残額の部分についての執行判決を認めることができると判示しました。
  2. 最高裁の判断
    上記1 に対して、最高裁は、「民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合、その弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても、これが懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできない」と判示し、その理由として、「懲罰的損害賠償部分は我が国において効力を有しないのであり、そうである以上、上記弁済の効力を判断するに当たり懲罰的損害賠償部分に係る債権が存在するとみることはできず、上記弁済が懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されることはないというべきであって、上記弁済が上記外国裁判所の強制執行手続においてされたものであっても、これと別異に解すべき理由はないからである。上記事実関係によれば、本件弁済は、本件外国判決に係る債権につき、本件外国裁判所の強制執行手続においてされたものであるが、本件懲罰的損害賠償部分は、見せしめと制裁のためにカリフォルニア州民法典の定める懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じたものであり、民訴法118条3号の要件を具備しないというべきであるから(最高裁平成5年(オ)第1762号同9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁参照)、本件弁済が本件懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されたものとして本件外国判決についての執行判決をすることはできない。」と述べました。

5. 検討

  1. 前提
    ある国における判決は、他国において当然にその効力が認められることにはなりません。

    判決及びこれに基づく強制執行は、主権国家が持つ国家統治権の一部である裁判権、司法権を根拠とするものであり、国家の枠組みを超えて他国に効力を及ぼさないのが原則です。

    もっとも、私人による国際的活動が発展する中で、上記原則を貫徹すれば、権利を有する個人に対する国際的な保護に欠け、また、同じ法律問題について国ごとに矛盾した判断が生じることにもなりかねません。

    そのため、世界の多くの国では、条約ないし自国法により一定の要件の下、外国判決の効力を自国に及ぼすことを認めています。

    この点、我が国の民事訴訟法には、外国判決承認制度が設けられており、外国判決の承認について、民訴法118条各号の定める要件(以下「承認要件」といいます。)を具備する外国判決は、我が国においても当然に効力を有するものとしています。

    民事訴訟法第118条【外国裁判所の確定判決の効力】
    外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。

    1. 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
    2. 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
    3. 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
    4. 相互の保証があること。
  2. 懲罰的損害賠償に対する過去の判断
    本件で問題となった懲罰的損害賠償とは、悪性の強い行為をした加害者に対し、実際に生じた損害の賠償に加えて、さらに賠償金の支払を命ずることにより、加害者に制裁を加え、かつ、将来における同様の行為を抑止しようとするものとされ、米国を代表とする英米法系の国・地域で採用されている制度です。

    これに対して、大陸法系をとる我が国では、民事上の問題と刑事上の問題を明確に区分して考えており、加害者への制裁は刑事上、行政上の手続きが担うとされています。

    そして、上記のとおり法118条3号は、当該外国判決の内容が公序良俗に反しないことを要件として定めているところ、過去の最高裁判例は、懲罰的損害賠償について、実損の回復を目的とする我が国の損害賠償制度の基本原則と相いれないことを理由として、公序良俗に反すると判断しています(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁)。

    そのため、本件外国判決のうち、懲罰的損害賠償請求に関する部分は、承認要件を満たさず日本国内で効力を有さないこととなります。

  3. 本件における具体的な検討
    本件でXは、形式的には補償的損害賠償請求部分についての執行判決を求めており、Xはあくまで、債務名義の金額を算定する前提事実として、Xが米国での強制執行手続により弁済を受けた金員について、懲罰的損害賠償請求部分への充当を主張していたにすぎません。

    しかしながら、最高裁は、Xの主張を認めた場合、日本国内で効力を有する補償的損害賠償請求部分の金額が増加することとなり、結果として、その範囲において本来効力を認めるべきではない懲罰的損害賠償請求部分の効力を認めることになることから、日本の損害賠償制度の基本原則と相いれないとして、かかる主張を排斥しました。

    本件判決で用いられているロジックは、形式的には国内的にも認められうる法律行為であっても、実質的な利益状況に着目して、それが承認要件を満たさない判決の効力を国内に及ぼすようなものであれば、これを明確に否定するものであり、執行判決を求める場合や懲罰的損害賠償請求に関する場合のみならず、広く援用、射程の及ぶ余地があると思われます(私見)。

    なお、現行の民事訴訟法及び民事執行法には外国裁判所の強制執行処分の国内における効力に関する規定はなく、国内における本件転付命令の効力の全容は不明ですが、本判決は少なくとも、これが国内でも否定されるものではないことを前提として判断しているものと思料致します。

6. 参考文献

  1. 判例タイムズ1489号(判例タイムズ社 2021年12月)
  2. 秋山幹夫他著「コンメンタール民事訴訟法2 <第2版>」(日本評論社 2006年)
  3. 兼子一他著「条解 民事訴訟法<第2版>」(弘文堂 2011年)

(担当弁護士 金子典正 /同 石井奏