今月の判例コラム

滞納処分の基礎となる租税が遡及的に消滅した場合の過納金の計算方法
(最高裁判所第3小法廷令和3年6月22日判決)

1. はじめに

昨今世間を騒がせた山口県阿武町での4630万円誤振り込み問題で、阿武町がその9割近くの回収に成功したとのニュースは、大きく報道され話題となりました。

そこで活用されたのが国税徴収法に基づく滞納処分としての差押えでした。税金を滞納していると登場する国税徴収法、滞納している税額にかかわらず債権の全額を差し押さえることができる(国税徴収法63条)等の強力な効果を持ちます。

今回の判例では、国税徴収法上の論点が直接問題とはならないものの、この法に関する重要な最高裁判例として、本コラムにおいて紹介させて頂きます。

2. 事案の概要

X (原告・控訴人・上告人)の平成20年分から同22年分の所得税につき,所轄税務署長が増額更正処分を行なったことに伴い,Y(稚内市。被告・被控訴人・被上告人)がX の平成21年度分から同23年度分の住民税を増額する賦課決定を行ない,この増額した部分の住民税を,Xの納付のほか,滞納処分(2件の預金債権差押え,および,2件の給与債権差押え)により徴収して,順次滞納住民税に充当した。他方,上記増額更正処分を不服としたXが提起した取消訴訟において,Xの申告額を超える部分を取り消す判決が確定したため,Y はXの平成21年度から同23年度の住民税につき減額賦課決定を行ない,これによって過納金が生じたとして,X に過納金および還付加算金を支払った。Yはこの過納金の計算にあたり,滞納処分において,減額賦課決定により配当当時存在しなかったことになる住民税に充当された金銭について,減額賦課決定により直ちに過納金が発生したものとして滞納税額とそれにもとづく延滞金を計算した。なお,上記減額賦課決定の時点で,滞納された税額は存在しなかった。これに対してXは,上記充当された金銭は直ちに過納金となるものではなく,配当当時存在していた滞納住民税に充当されるべきであり,その計算にもとづくと延滞金が減少し,還付される過納金が増額するとして,その部分の過納金につきYの不当利得として返還を請求した。

3. 主な争点

  • ① 複数の滞納地方税A・B・C を基礎とする滞納処分が行なわれ A に充当された後にAの一部が遡及的に消滅した場合,A のうち消滅した部分に充当されていた金銭は法律上の原因を欠くとして直ちに過納金になるのか,それとも同じ滞納処分の基礎となっている地方税B・C に配当されるべきであるのか。
  • ② 充当されていた金銭が他の地方税B・Cに配当されることになるとして、どの地方税から充当すべきか。

4. 原審決と知財高裁の判断

  1. 原審の判断(札幌高判令和2・9・10)
    地方税の賦課決定に基づき滞納処分による徴収がされ、徴収された金銭が当該地方税に充当された後,当該地方税について減額賦課決定がされた場合,当該減額賦課決定に係る税額を超えて徴収された金銭については,徴収の時点から法律上の原因を欠いていたものであるから,そのまま過納金として還付されるべきであり,その徴収当時他に滞納税が存在したときであっても,当該他の滞納税に充当されたものとして延滞金等を計算する法的根拠は存在しない。
  2. 上記1に対して、最高裁は、①につき「当初の賦課決定のうち減額賦課決定により減少した税額に係る部分は当初の賦課決定時に遡って効力を失い,当該部分の個人住民税は当初から存在しなかったこととなる。そのため,当初の賦課決定に基づく個人住民税を差押えに係る地方税とする滞納処分における配当金であって,上記減額賦課決定がされた結果存在しなかったこととなる個人住民税に充当されていたものについては,当該充当は対象債権を欠いていたものとしてその効力を有しないこととなる。ところで,複数の地方税を差押えに係る地方税とする滞納処分において,当該差押えに係る地方税に配当された金銭は,当該複数の地方税のいずれかに滞納分が存在する限り,法律上の原因を欠いて徴収されたものとなるのではなく,当該滞納分に充当されるべきものである。」 (下線部筆者)
    ②につき「複数年度分の個人住民税を差押えに係る地方税とする滞納処分において,当該差押えに係る地方税に配当された金銭であって,その後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の個人住民税に充当されていたものは,その配当時において当該差押えに係る地方税のうち他の年度分の個人住民税が存在する場合には,当該個人住民税に法定充当がされるものと解すべきである。」
    と述べました。

5. 検討

  1. 前提
    納税者が納期限までに租税を完納しないことを租税の滞納といい、納税義務の任意の履行がない場合に、納税者の財産から租税債権の強制的実現を図る手続きを滞納処分または強制徴収といいます。国税の滞納処分に関する一般法として、国税徴収法があり、地方税の滞納処分については、国税滞納処分の例によることとされております(地方税法68条6項・72条の68第6項等)。

    また、差押財産の売却代金等、滞納処分によって得られた金銭を租税その他の債権に配分することを配当といいます。配当の対象には差押財産や債権等があります(租税徴収法128条等)。

    加えて、個人の道府県民税の賦課徴収は、原則として、当該道府県の区域内の市町村が、当該市町村の個人の市町村民税の賦課徴収の例により、これと併せて行うものとされ(地方税法 41条1項前段,319条2項)、市町村民税に係る地方団体の徴収金の滞納処分は、国税徴収法に規定する滞納処分の例によるものとされます(地方税法331条6項)。そして、国税徴収法は,滞納処分における換価代金等は、「差押えに係る国税」(129条1項1号)等に配当する旨規定されております。

    また、本件で言及されている法定充当とは、改正民法488条4項(改正前民法489条)に規定する内容をいい、弁済期や弁済の利益が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当されることを指します。

  2. 減額賦課決定により減少した税金に対する過去の最高裁の判断
    この点について参考となる判例として、「最判平成22・10・15民集64巻7号1764頁」があります。

    上記判決では、被相続人が提起していた所得税更正処分の取消訴訟を相続人が承継していたところ、取消判決が確定して発生した過納金の還付請求権について、これが相続人の相続財産となるか否かが争われました。判決では、「所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消判決が確定した場合には,上記各処分は,処分時にさかのぼってその効力を失うから,上記各処分に基づいて納付された所得税,過少申告加算税及び延滞税は,納付の時点から法律上の原因を欠いていたこととなり,上記所得税等に係る過納金の還付請求権は,納付の時点において既に発生していたこととなる」(つまり、被相続人が納付した時点から還付請求権は発生し、相続財産となる)とされました。

    結論として、所得税更正処分は取消判決によって更正処分時に遡って効力を失うこと、納付の時点から所得税は法律上の原因を欠いていたことを示しました。

  3. 本件における具体的な検討
    まず、上記争点①については(法律上の原因について)、原審(一審も同じ)は、上記2の判決と同様の考え方をしました。

    本判決も、4.2で引用したように、取消判決によって所得税更正処分が処分時に遡って効力を失う点は同じように考えたと言えます。もっとも、次の点、本来なかったこととなる個人住民税に配当されていた分について法律上の原因がないとする部分については異なる考えを取りました。すなわち、配当された金銭は、他に複数の地方税に滞納分が存在するのなら、当該滞納分に配当される限りでは法律上の原因があるということです。

    他の滞納地方税に配当されるべきとした根拠としては、判決にもある通り、滞納処分制度は地方税等の滞納状態の解消を目的とするものであることにあります。すなわち、他の滞納していた地方税に配当されずに直ちに過納金として還付されれば、他の地方税についてその滞納状態を解消することができないため、制度の目的に反してしまうことになるからです。

    次に、上記争点②の点については(充当については民法488条4項の法定充当が適用)、租税法律関係についても、それを排除する明文の規定ないしは特段の理由がない限り、私法規定が適用ないし準用されると解すべきであると解されております。
    本判決は、債務の弁済にかかる画一的かつ最も公平、妥当な充当方法である民法の法定充当の規定に従った充当がされるべきとしており、上記の私法規定が適用されるべきとの原則的な租税法と民法との関係性と整合しますので、この考えに沿ったものと言えます。

    最後に今回の判決は、複数年度の個人住民税を差し押さえに係る地方税とする滞納処分のケースでした。もっとも、所得税や消費税といった他の税金について滞納し、差し押さえがされたケース等にも本判決の射程が及ぶ可能性があり、その点で意義があるものと考えます。

6. 参考文献

  • 判例タイムズ1490号(判例タイムズ社 2022年1月)
  • ジュリスト1564号(有斐閣 2021年11月号)
  • 金子 宏著「租税法<第23版>」(弘文堂 2019年)

(担当弁護士 金子典正 /同 廣原良哉