今月の判例コラム

社債に対する利息制限法の適用(最高裁第三小法廷令和3年1月26日判決)

1. はじめに

最高裁判所は、令和3年1月26日、利息制限法第1条所定の制限利率を超える社債を発行した会社Aの破産管財人X(上告人)が、Aより上記社債を引き受け、利息の支払と社債の償還を受けたY(被上告人)に対し、利息制限法第1条所定の制限利率を超える部分を元本に充当すると過払金が発生するとして、不当利得返還請求をした事案において、Xの主張を否定する判決(上告棄却)を言い渡しました。

社債に利息制限法が適用されるか否かについての判断を示した判例として、今回のコラムでご紹介させて頂きます。

2. 事案の概要

  1. Aは、投資に関する新たなシステムの開発等に要する資金を調達するため、会社法676条各号に掲げる事項(以下「募集事項」という。)を定めて、その発行する社債を引き受ける者の募集をしました。
  2. 上記募集に応じて社債の引受けの申込みをしたYは、Aからその割当てを受け(以下、Yが割当てを受けた社債を「本件社債」といいます。)、平成24年6月28日に1000万円、同年7月24日に1000万円を支払いました。
  3. Yは、上記払込後から平成27年までの間、Aから、利息制限法1条所定の制限利率を超える利率の利息の支払及び社債の償還を受けました。
  4. Aは、平成28年4月13日、破産手続開始決定を受け、Xが破産管財人に選任されました。

3. 主な争点

本裁判では、社債に利息制限法が適用されるか否かが主な争点として争われました。

4. 原審と最高裁の判断

  1. 原審の判断
    原審は、事実関係のいかんにかかわらず、社債には利息制限法1条の規定は適用されないから、本件社債にも同条の規定は適用されないと判断して、Xの請求を棄却しました。
  2. 最高裁の判断
    これに対して、最高裁は、
    「利息制限法1条は,「金銭を目的とする消費貸借」における利息の制限について規定しているところ,社債は,会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であり(同法2条23号),社債権者が社債の発行会社に一定の額の金銭を払い込むと償還日に当該会社から一定の額の金銭の償還を受けることができ,利息について定めることもできるなどの点においては,一般の金銭消費貸借における貸金債権と類似する。

    しかし,社債は,会社が募集事項を定め,会社法679条所定の場合を除き,原則として引受けの申込みをしようとする者に対してこれを通知し(同法677条1項),申込みをした者の中から割当てを受ける者等を定めることにより成立するものである(同法677条2項,3項,678条,680条1号)。このように社債の成立までの手続は法定されている上,会社が定める募集事項の「払込金額」と「募集社債の金額」とが一致する必要はなく,償還されるべき社債の金額が払込金額を下回る定めをすることも許されると解される(同法676条2号,9号参照)などの点において,社債と一般の金銭消費貸借における貸金債権との間には相違がある。また,社債は,同法のみならず,金融商品取引法2条1項に規定する有価証券として同法の規制に服することにより,その公正な発行等を図るための措置が講じられている。

    ところで,利息は本来当事者間の契約によって自由に定められるべきものであるが,利息制限法は,主として経済的弱者である債務者の窮迫に乗じて不当な高利の貸付けが行われることを防止する趣旨から,利息の契約を制限したものと解される。社債については,発行会社が,事業資金を調達するため,必要とする資金の規模やその信用力等を勘案し,自らの経営判断として,募集事項を定め,引受けの申込みをしようとする者を募集することが想定されているのであるから,上記のような同法の趣旨が直ちに当てはまるものではない。今日,様々な商品設計の下に多種多様な社債が発行され,会社の資金調達に重要な役割を果たしていることに鑑みると,このような社債の利息を同法1条によって制限することは,かえって会社法が会社の円滑な資金調達手段として社債制度を設けた趣旨に反することとなる。

    もっとも,債権者が会社に金銭を貸し付けるに際し,社債の発行に仮託して,不当に高利を得る目的で当該会社に働きかけて社債を発行させるなど,社債の発行の目的,募集事項の内容,その決定の経緯等に照らし,当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められるなどの特段の事情がある場合には,このような社債制度の利用の仕方は会社法が予定しているものではないというべきであり,むしろ,上記で述べたとおりの利息制限法の趣旨が妥当する。

    そうすると,上記特段の事情がある場合を除き,社債には利息制限法1条の規定は適用されないと解するのが相当である。
    前記事実関係によれば,本件において上記特段の事情の存在はうかがわれないので,本件社債に利息制限法1条の規定は適用されないというべきである。したがって,上告人の請求は理由がない。」
    と判示しました(※上記「 」内は判例をそのまま引用しております。)。

5. 検討

社債契約の法的性質については、従前より、①要物的消費貸借契約であるとする見解、②消費貸借契約に類似する無名契約であるとする見解、③債券(社債券)の売買であるとする見解、④原則として消費貸借契約に類似する無名契約であるが、記入債等(商工債・全国連合会債・長期信用銀行債・農林債等)に認められているところの売り出しの方法をとるときは例外として債券の売買であるとの見解などが学説上示されておりましたが、本判決は、社債の法的性質自体の検討を行わずに、社債と金銭諸費貸借の実質的な違いを強調し、特段の事情という例外を用いながら、利息制限法の適用を原則として否定した点に意義があるものと考えられます。

具体的にどの程度の事実関係があれば、「社債の発行の目的,募集事項の内容,その決定の経緯等に照らし,当該社債の発行が利息制限法の規制を潜脱することを企図して行われたものと認められる」のかについては事案の集積を待たなければなりません。

ただ、本判決の判示するところによりますと、利息制限法には、経済的弱者である債務者の窮迫に乗じて不当な高利の貸付けが行われることを防止する趣旨がある一方で、社債が、金融商品取引法2条1項に規定する有価証券として同法の規制に服することにより、その公正な発行等を図るための措置が講じられていることなどを根拠に、利息制限法の趣旨が直ちに妥当せず、社債について利息制限法が適用されるのはあくまで例外的場合に限られるとしております。

そして、本判決が、本件社債が私募債として発行されていること、及び引受人がY1名であったこと等の金銭消費貸借契約における貸主借主の関係性に近似すると評価しうる事情があるにもかかわらずこれを否定していることから、例えば、従前金銭消費貸借契約に基づき貸し付けを行っていたにもかかわらず、近しい条件で社債を発行したなど極めて特殊な場合でなければ、判旨にある「特段の事情」の存在は認定されないのではないかと推察されるところです。

6. 参考文献

判例時報2495号25頁
別冊ジュリスト254号227頁
橋本円「社債法 第2版」(商事法務2021年)

(担当弁護士 金子 典正/同 石井 奏/同 岡野 椋介